デート・アポカリプスを超えて~TInderと出会い系アプリの文化について

現在目にすることができるいかなる形態のサービスも、究極的には出会うことを目的としているとしても、
いまからぼくが書きたいのはそんなことではない。
いわゆる、出会い系のことだ。
インターネットを通して知らない相手と出会ってセックスまでしたことがある人がどのくらいいるかわからないが、
もし、会社では彼氏想いの一途な女性を装っていて、いや事実そうだとして、
しかし内実は自身の性欲に抗うことができずにこっそりとデート・アプリを利用しているとしても、
決してそれを恥じることはない。
なぜなら、2018年現在、我々人類は1万5000年ぶり、2度目の大きな動物行動としての変化を目の当たりにしているのだし、それらを総称して「フックアップ・カルチャー」と呼んでいくことに、多くの若い世代(ミレニアル世代世代)は抵抗がないからだ。
セフレという言葉はすでに魅力を失っているし、かつての「出会い系サイト」は世代交代し、援助交際は流行らなくなった。
まだ課題は多いにせよ、性的多様性のグラデーションとその人権は少しずつでも認識されるようになった。
21世紀の話だ。SNS、SNS、毎日、SNSSNSSNS、、、、。
映画『バベル』の中で絶望的に再確認させられた「我々はいつまでも繋がることはできない」というテーゼが、その頃にはまだ実現されていなかったレベルでより濃密に感じるようになったのは、おそらくSNSが世を席巻するに至るタイムラインと重なっているに違いない。
2012年に、オンラインでのデートに革命が起きた。それはプロメテウスの逸話と重なり合うように、火の象徴を掲げて生まれたのだ。
この年に、婉曲表現として「マッチング・アプリ」と呼ばれるデート・アプリの「Tinder」は、5000万人をのアクティブユーザー獲得した。単なる会員数ではなく、アクティブユーザーを。
アメリカのウェブメディア「ヴァニティ・フェア」が「デート・アポカリプス」と呼ぶその現象は、人類史において二度目の大きな変化なのだ。一度目は1万5千年前におきた農業革命で、人類は移住生活から定住生活へと形を変えて、それが結婚という社会的な契約へと導いた。そして二度目が、インターネットによるフックアップ・カルチャーだ。
フックアップ・カルチャーの台頭を軽くおさらいしてみよう。
フックアップ(fook-up)とは、知らない相手と交際相手の有無に関わらずセックスを目的にして出会うこと。
1990年代にクレイグリストとAOLのチャットルームが始まると、すぐにマッチ・ドットコムやキス・ドットコムが続く。そして1998年にはメグ・ライアンの『ユー・ガット・メール』が公開されるが、映画の中ではすでに「サイバーセックス」という言葉が使われている。サイバーセックスという言葉自体はもしかするとウィリアム・ギャディスやその他のサイバーパンクと総称されるような人たちの作品ですでに知られていたのかもしれない。
2003年に始まったMyspaceが本来の目的とは違い、出会い系として多くの人に利用されたことはよく知られている。Myspaceはプロフィール欄のカスタマイズを非常に重視していて、出会うことが前提となる項目「Who I’d like to meet」などがあらかじめ設定されていた。しかしその後台頭することになるFacebookはその最初から出会い系サービスとして開発されたことは映画『ソーシャル・ネットワーク』に端的に描かれている。シングル、既婚、パートナーの有無やセクシュアリティの種類、興味のある項目を選択したり新規追加して編集したり、ここで出会った人は日本ではカタカナの「フレンド」と呼ばれるのだ。
こういった流れの中で、フックアップ・カルチャーは2012年に台頭する。その先駆けとなったのがTinderで、これは今ではあらゆるアプリで当たり前となっている「スワイプ」操作を導入した画期的なUIデザインをひっさげてデビューする。
Tinderは極めて洗練された操作性とデザインを併せ持っていた。TInder上にはGPS機能によって近くにいる相手がランダムに「一人だけ」表示され、気に入ったら右にスワイプ、気に入らなければ左にスワイプする。すると、また次の相手が現れる。右と左のスワイプ、これを、ただ繰り返していくだけなのだ。お互いが右にスワイプした時点で「マッチ」となり、マッチした相手とは自由にメッセージを交わすことができる。ここまでの操作で課金が必要なことは一切ない。(1日の右スワイプの上限は決まっている)Facebookやツイッターよりも単純な操作、広告はなく、自分のプロフィールと相手のプロフィールとチャット、この三つの画面を行き来するだけのアプリケーションに、5000万人のユーザーが毎日平均1時間半も利用しているのだ。
2014年にはパリで新たなサービス、Happnが登場する。これはすれ違った人のプロフィールがタイムラインに表示されるというもので、Happnの登場以後は、これと同じコンセプトで生み出されたサービスが乱立することになる。
2012年にはすでに1億人が毎日、デートアプリを使用している。OkCupid、Hinge、Happn……しかしTinderがその半数を独占しているといわれている。日本でもTInderやHappnが日本語対応を開始し、他にも競争は激化している。「出会い系サイト」と呼ばれる怪しいサイトが通常の生活では目に見えずにひっそりと存在していた2011年以前に比べ、そのアンダーグラウンドなイメージはなくなりつつある。
そう、フックアップ・カルチャーにおいては、アプリやネットサービスを利用して出会う、つまり(婚活ではなく)セックスする相手を探すことはそれほど恥ずべきことではなく、女性においても、これがニンフォマニアックとは見なされなくなったのだ。
日本のフックアップ系のアプリとしては最大級のペアーズは会員数800万人を超え、メンタリストDaiGoが監修するwith、サイバーエージェントが運営するタップル誕生、ゼクシイのブランドイメージを利用したゼクシイ縁結び、人気度によっていいねの消費ポイントが異なるomiaiなどがそれを代表する。
されにTinder Japanから独立し、女性主体で女性の地位向上を謳うHatchが誕生する。
Hatchは女性側からしか最初のメッセージを送ることはできず、さらに24間以上会話がなければ自動的にマッチングが消滅する。
この効果は思ったよりも大きい。
なぜかというと、男性側からの強い性的興味を押し出したメッセージは、
「女性から最初に話しかけられる」というただ単純な変化によって、消え失せるのだ。
つまり、女性から話しかけられるというだけで、余裕を持った紳士的な態度になる、というわけだ。
多くの出会い系アプリでは、男性側からの執拗なチャットに辟易した女性が、「No Hook-up」や「セフレ探してません」といった一言をプロフィールに付け加えなければ、やばいメッセージがあとをたたないのだが、Hatchにおいてはそれをする必要はない。
Tinderを始めとするフックアップ・カルチャーは性的なイメージを劇的に変えつつある。フランスでLGBTのパレードがあれば虹色に塗られたTinderバスが映し出され、性的な社会問題に関するプロモーションがこれに参入する。
国際人権NGO団体のアムネスティ・インターナショナルは女性の地位向上に関するプロモーションにTinderを利用した。
Tinder上でのスワイプの際に、次の文句がポップアップする。
「あなたは相手を選ぶことができますが、多くの女性はその選択肢がありません」
この不思議な広告はもちろんTinderのCEO、ジャスティン・マーティンが絡んでいる。
「オーストラリアには何百人もの若い女性が人権侵害に直面しています。人権侵害の意識を高めるためにこのような団体とプロモーションができて光栄です」
イギリスでも国営医療サービス事業が、若年層の臓器提供者の意識を高めるための広告をTinder上で打ち出し、これについてもTinderヨーロッパのトップがコメントしている。
そう、フックアップ・カルチャーの只中で目にする広告は、エロ動画サイトや別のデート・アプリではないのだ。
南カリフォルニア大学の研究者カレン・ノース教授がポケモンGoを「よくできた出会い系アプリ」といっているように、またSNSを利用した性的犯罪がメディアで度々大きく取り上げられるように、オンラインでのアクションを必要とするアプリケーションのほとんどすべてに出会い系よしての側面があることは事実だろう。
しかし、デート・アプリがこれらと違うのは、デート・アプリは自らを「デート・アプリ」と認めていることだ。FacebookやLINEのユーザーは、自分たちが毎日デート・アプリを利用しているとは思っていないのだ。
かつてのMixiがデート・アプリとしての機能をふんだんに盛り込んでいた(たとえば、悪名高い”足あと機能”)のに反して、ついに最後までこれが出会い系サービスであることは認めなかった。マーク・ザッカーバーグはそうではなかったが。
つまり、デート・アプリは、デート・アプリであると自他共に認めるからこそ、
人権問題について考えさせるような広告が利用されたり、
ホーソーンの緋文字のような性的保守的な文化を完全に払拭するだけのパワーがLGBTのパレードとマッチングするのだ。
ニンフォマニアックな人々が、それに苦しんでいるんだとしたら、
TInderは、LGBTのパレードにおけるバスの標語と完全に一致した文句をいうだろう。

Ride with Pride
誇りを持って乗れ

 

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